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思考社

いんふるえんす我丞の情報発信基地。

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2024/05/10 (Fri)

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昼飯時に -鳥と犬と鼠の話-

2007/05/12 (Sat)

 教室には青年が二人、学院から支給された半袖に身を包んで机を差し挟む。
 片方の青年は手に持った紙束で生ぬるい風を送る。
 壁に掛かった温度計が残りわずかな液体のストックを+へと押し上げる。
 机上のノートに書き込まれるいくつかの数字。
「やっぱ8くらいだと思う」
 小さく控えめに書かれた8の文字。ペンを持つ手のインク染みが手ににじんだ汗に流されて、散り散りに書かれた文字達を滲ませて机の一方へと引き下がる。
 もう一方の手が机の向こうから伸びてきてマーカーで大きく二本、ばってんの形に線を引く。紙面を擦る赤色の筆先が二人で貸しきりにした9号棟の一室に響いて街の雑音と混じる。
 日当たりの良い6階までとどく客引きの口上は帝都一巨大な歓楽街の袋小路から壁をつたう。すぐ横に学舎があるなんて考えもしない大声がうるさい。
「8なんて俺は認めん。間違いなく2ケタは必須」
若干左上がりのスピードのある数字が16を記す。
「そこまで温度要らないって」
 コツコツとペン先が机を叩く音も凄まじく、先に8を書いた青年が黒い前髪を邪魔そうにかきあげて渋い顔で抗議を表す。ただでさえ熱いんだからそれ以上はごめんだと言わんばかりのまなざしが向かいに座る学友の視線とぶつかる。
 行儀悪く袖をまくって片肘ついた姿勢で、何か文句あんのかと無言の物言いで返してきた。褐色に日焼けした喉元から、心なし、小型犬が威嚇しているようなくぐもった響きが聞こえる。

 うだるような熱波の中、討議の平行線がまっすぐに伸びて行く。

 「こっから上でなきゃ絶対認めねぇ」
 「いいや、こっちで十分だね」


「どっちだっていいじゃない。ところで何話してんの?酒?食い物?」
「「原始星の第二核融合開始温度」」
 ここぞとばかりに声がそろった。
 一つしかない教室の出入り口に立った女学徒には深紅の髪とよく動く鼠の耳、そして長いしっぽがあった。呆気にとられてぱたりと床を打つ。
「それがどこから熱いのかって話なんだけど」
目の前に傲然と並んだ小さな5から20の数字の左にはそれぞれ大きな10が並んでいる。乗数だ。単位には超過大温度を示す大文字。
「あー、あんたら学食来なかったよね」
 時計の針は真昼を2時間程過ぎている。
「だってよぉ、教科書なのに温度幅あるって」
 どうよそれ、と右側から。どうなんだろうね、と左側から。
「そんな事でメシ抜くかぁ?」
気が合うんだかそりが合わないんだかよく分からない二人に生暖かなまなざしと意地悪なため息をくれてやる。まったく手間のかかる意地っ張りめ。

 真昼の明るさにも負けない深紅の尻尾がくるりと弧を描く。
「大陸歴3250、第289回学会禄話文書」
 女としては魅力のない,厳つい手で一括りになった数を指す。
 10の11乗。会議に依ればここから先が熱いということになっている。
「・・・・・・なんで。どうして」
納得出来ない何が根拠だとぶつぶついう黒髪の少年が、明確な回答を求めて視線を泳がせる。
「あたしに聞かれましても。大昔の会議で決まったことなんでねぇ・・・・・・ま、薬漬けと標本箱がやることでもないじゃん」
「じゃあなんで格闘女がンなこと知ってんだよ」
それこそ謎だこんちくしょー、と脱力するもう一方にも憔悴の色が濃い。
 一斉にいすの背やら机やらに突っ伏す男どもをからからと笑って、目と鼻の先に紙包みを突き出す。
「蓬莱軒の包菜子と肉粽、要る?美食家のあたしが認めた逸品、美味いよぉ」
芳しい匂いに釣られた一瞬目が合って、  
「はいっ食べます!」「つつしんで頂きます」
雁首揃えて頭を下げた二人の掌に二つずつ、遅めの昼食が乗せられる。

 本当なら炎天下に30分待ちの行列店で作った超一級品。しかも数量限定。払い下げ品だからちょっと型くずれしてはいるものの、店子をやっている彼女だから持ってこれた最高の昼食である。
 「「「いただきます」」」

 実はこれを待っていたと言ったら、あんたらやっぱ阿呆だと笑われるだろうか。
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帝都ヴィルダリアにて -見つけられた鳥の話-

2007/02/26 (Mon)

王立学院総本山の単科授業を5周期ほど取っている。

学院授業でベルヌ系植物の実験を行った。その時に、自宅栽培の鉢で咲いた純ベルヌ系の白い花が風喰で落ちたのが栞になって辞書にはさまれていたのを思い出したので、授業中に同様の処置をしておいた。

ここからは僕の勝手な放課後研究になる。
学院総本山の良い所は、職員の認可証一つでどの試薬品も使い放題にしてくれるところだ。地方に居たんじゃこんな贅沢はできない。富と権力の集まる王都だからこそ、渡り鳥に餌でもくれるような感覚で物資をばらまけるのだ。たとえそれが広告のパーツであるにしろ、田舎くんだりからのこのこやってきた苦学生にはありがたい事だったし、実際タダ飯と薬品臭い散財が目的で来てる学徒も相当いるんじゃないかと思う。

 青緑色の反応剤を広口瓶から器へと流し入れ、さらにそこからピペットで試験管に取り分ける。授業で煮沸処置をして中に入れてある花弁と花台が浮いて、白く青く周りを映した泡と共に沈んだ。
 少しだけどろりとした感のある液体はそれ自体が面倒なシロモノで、数分も大気にさらせば空気を取り込んでたちまち泡となって逆に空気中に分解されていってしまう。必要な着色剤を大急ぎで垂らし、速攻で栓をする。
 五分も待てば古ベルヌ系に特有な物質だけが青く着色されているはずだ。

 ベルヌ系植物には大別すると種類あって、現代のベルヌ系植物は『新ベルヌ体系植物』といって、今の位置が正式に王都とされた時あたりからのものを言う。
 つまり、その前からあったといわれるのが『古ベルヌ体系』で、現存しているものは3種しかなく、しかもそのうち二つはどこかで外来種が混じってしまったらしい。唯一、古ベルヌ体系の中で純性を保ったのが通称<青ベルヌ>と呼ばれる砂漠の植物だ。実は昨年の野宿で偶然見つけたのがこれだった。滅多に花もつけないわりにあれこれ必要とする、どこぞの温室育ちのお嬢さんみたいな甲斐性のない花だが、植物好きを自負する身としては、青ベルヌは持ってるだけでステータスだと言いたい。(そう言ったら近所のお嬢様に馬鹿扱いされたが。)

 授業で使った植物は学院温室の中でも貴重な古ベルヌ系植物、しかも純性の生葉だった。それでも、反応したというにはあまりに微弱な青だった。

 <青ベルヌ>の名前の由来になった実験は今を遡る事数百年前にに初めて行われた。文献にもしっかり残っていて、教科書に載っている実験の記録と研究者の言葉を何度も読んだ覚えがある。


「黒き流れを身に流す草、パクマリカ地方付近沙漠産出の緑磁石に繁青色活反応を示す。常緑と濃青、即ち豊かさを表す色と也」



続く学院の実験備考には、

「古ベルヌ種はかつてこの国に存在した黒の箱気脈を清活脈に取り入れることで生存していた古代種である。黒の箱気脈消失により栄養源を失い、現存する古ベルヌ系は錯誤流脈性のものとされている。実験において貴重な緑磁石とその他8種類から作る高等反応薬に反応し、反応色は淡青色である。」

古ベルヌ種が黒の箱気脈の枯渇と共に古代種となってしまった事が書かれている。




五分後。

青い花弁が濃紺の液を滴らせながら自重に耐えられずむしれて、受け皿にしようと思っていた白い小皿に落下した。ピンセットに摘まれた一枚の半分が手の震えのせいで押しつぶされた。

その、深いあお。

黒気脈に反応しているかのようだった。
云百年も昔に消えたはずのエネルギーの流れに。

「どういう、事だ」

"not RE"  夕暮れの中

2007/02/06 (Tue)

時間も空いてしまった事だし、少し長めに。


今朝ようやく帝都の第二聖門を通過しました。

砂嵐が酷すぎて散々遠回りをしなければならなかったのと、艇に載せてくれた人の連れが山境付近で落ちて行方不明になっていたのを探していたからなかなか手紙を出せなくて。(でもそのおかげで空洞穴に生える樹銀草を見られたので良しとしておきます。)
学院についてからは担当の事務員に案内されて、学院中を案内されました。階段が多かったのは帝都の狭さゆえなのだけれど、これを年配の学師様たちが平然と上ってゆくのが帝都学院名物らしいね。

帝都に来るのは小さい頃に戸籍移動で連れて来られて以来だから、市外壁の様子も町の中も、もちろん緑青闘争の最終年には焼かれて新築された帝都鳳城を見るのも初めてでした。

学院もそうだというけれど帝都のほとんどが戦後の新築らしくて、建物の高さとか、バルコニーや通りの舗装なんかまで通りごとに違う。(後で、実際かなり細かい規定があると事務員から聞きました)僕らのいる新島なんてその少し前に作られたっていうのに、雲泥の差だね。

建物の中庭にもそれぞれの工夫と明りとりがあって、学院の中庭には浮遊石を使った空中菜園までありました。生まれた時から新島に住んでいる君は、この光景に慣れてる気がしないでもないけれど、沙漠やごく少数の森林地帯に住んでいる学徒にはかなり危なっかしい庭に見えるんじゃないかな。

僕はこれからしばらく帝都の学院で学ぶ予定でいます。あまり長居するつもりは無い・・・・・・のだけど、僕の行きたい場所へ行くにはどうしても学院で紹介状を手に入れていかなければならなくて、正直なところ、半衛期ぐらい待つ事を覚悟しているんです。君の時期領主権限で止められると思ったから、はじめに出した手紙には書けなかった。
手とトマト爆弾が絶対届かない今だから、一礼してごめんなさいと素直に言える。
小言は次に会ったときにでも。

生活に必要なものは学院で全部支給されるので、(手伝いや課題研究によっては多少の給与もあると見込んでいます)放蕩息子で済まないけれど、母には心配しないように伝えて置いてください。
もしかしたら単位もこっちで取ってくかも。

この手紙を出したら、今夜は一晩中起きて星見をする予定です。
学徒用宿舎は学院の上なので全天星見と足腰だけは鍛えられると思います。
それでは。


明日から授業の学徒より


追申、今の時期は西風に大陸の砂が混じるので
夕方には君の部屋の大窓を閉めておくことをお勧めします。

記号化された帝王の手紙

2006/10/27 (Fri)


帝都地下機関、ハルベルヌ機関統府主殿


 やあやあ、久しぶりだね帝都地下在住の色ボケ学者殿よ。手紙の始めに持ってくるにしては物騒な話題なんだが地下栽培の人間に鉢植え自慢なんて野暮な事する気もないし。で、君に一つ聞きたいんだけどさ。古ベルヌ植物の一部に、 あ り も し な い 黒の箱の影響が出てるってどういう事かな?

 黒の箱はマリア機構以前の、それこそ僕らの曾爺さんの14乗より前の話に出てくるぐらいの産物だ。今この国の気脈主になってる豊穣のマリア機構に対して、黒の方は“滅びの漆黒”なんて異名あるくらいだし、今無いって事はご先祖さんに壊されたか異界に持ってかれたかしたんだろうねぇ。
 それにしてもマリア機構って大したもんだね。アレがあるおかげで僕らは今この国の王様やってられるわけだから、感謝も一塩ってところだよ。一体誰が作ってくれたんだろうな?

 あ、話戻すから読むの止めないでよ。久しぶりに誰にも言わずに帝都の学院に査察しに行ったんだけどさ、こないだ領地にしたとこの少年が休暇で帝都の授業受けに来ててね。なんとこれがベルヌ系の植物反応の異変を調べていたんだよ。先生達が見向きもしない実験を必死に文献漁っちゃったりして、まるで僕の若い頃に似てるせいか、どーにも肩入れしたくなっちゃってさ。(もちろん、彼が将来有望な研究者になってくれそうだからこそ、勧誘してるわけだがね?)
 彼、星かがりの機関見に行きたいらしいんだけど、案の定門前払い喰らったそうで。そーだよねーあの堅物が局長だもんねぇ無理無理。でも革命の時に僕に左遷されて以来仲悪いし、仲良くする気無いし。
 というわけで、彼の為に紹介状を一通書いてくれないかな?表に出てこなくても以上に長命でも、存在自体が居るかどうか怪しくても、君の肩書きなら全研究機関が従うんだよね?お礼に僕のお手製ブルーローズを一鉢進呈するが、どうだい?この国に二人しか居ない帝王の一品。貰っておいて損はさせないよ。


 表の世界は変わったよ。君がいつからどれほど見てないのかは憶測でしか無いけれど、ざっと見積もってマリア機構の誕生と同じ時期かな?先日も、組織に意志を飲まれぬ己を持ちうる者が僕に会いに来てくれてね。ほんと、時代は変わったよ。そうそう、こないだ帝都内も区画整備で綺麗にしたんだ。流石に歓楽街は消せなかったけど、それでも2割くらいは削ってやったかな。異界渡りの“爆発物”とかいうの使ってみたら、これがまた大雑把な代物で参ったね、威力は申し分ないんだが残骸が凄まじかった。

 何年地上に出てないのか知らないけど、僕と奥方の革命の成果を見にこないか?浮遊島育ちのフヮリキとかいう果樹のパイが美味しくてね。んじゃ、気長に待ってるよ。



ハルベルヌ国帝王より 要らない愛を込めて

基幹講座 -暦-

2006/09/11 (Mon)

 学院本部秘密基幹講座へようこそ。今日は特に異界面より我らが界面へいらっしゃった方も多くいらっしゃるようだ。

 君達が今居るところは、ハルベルヌ国、王都ヴィルダリアという。そして今日は・・・・・・おっと、その前に歳期の数え方を教えておかなくては。
 教科書の3頁を開いて・・・・・・物質媒体干渉の出来ない者は近くの学人に手伝ってもらいなさい。さて、ここには他の界面で使用されている言葉に近い物を載せておいた。参考にしてほしい。


・年/衛期

・月/周期
 18ある。震旦国より古来において伝わった十八月暦に基づく物と解釈されている。

<分類1>ある一定の高度にあり、法則性のある十八の月に由来する。
 優宮月(ユグ)、居戸月(オルド)、創塔月(ソトゥナ)、独琴月(ソリキ)、遠洲月(トラシユラ)、陽臣月(ホルトリケ)、弾鈴月(ドゥニ)

<分類2>天体、自然現象に由来する。
 雷鳴月(ラミテ)、断朽月(ガノーク)、樹杜月(ケルダビレ)、禽衆月(アドリセ)、留影月(ネイ)、照久月(テルクゥナ)、居融月(ルシュナ)

<分類3>建国史に関わる。
 漂流月(ソルトゥーク)、溢月(ラグシーク)、マリア月、爾無月(ジェナム)

・一月は4節+3葉

・週/節

・日/葉


 ざっと、こんなところかな。秘密裏とはいえ、あまり学院らしからぬ事を教えていると総長殿に怒られてしまう気がするのでね、この時間はこれにて。

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HN:
我丞
性別:
非公開
職業:
人の話きく人
自己紹介:
人間27年生。
セクマイ道7年生くらい?
心理臨床とセクマイと発達凸凹を応援するよ!

ここにあることばと存在が、私のプロダクト。
見て、わからないことは聞いて。

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Tamariba

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