思考社
いんふるえんす我丞の情報発信基地。
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昼飯時に -鳥と犬と鼠の話-
教室には青年が二人、学院から支給された半袖に身を包んで机を差し挟む。
片方の青年は手に持った紙束で生ぬるい風を送る。
壁に掛かった温度計が残りわずかな液体のストックを+へと押し上げる。
机上のノートに書き込まれるいくつかの数字。
「やっぱ8くらいだと思う」
小さく控えめに書かれた8の文字。ペンを持つ手のインク染みが手ににじんだ汗に流されて、散り散りに書かれた文字達を滲ませて机の一方へと引き下がる。
もう一方の手が机の向こうから伸びてきてマーカーで大きく二本、ばってんの形に線を引く。紙面を擦る赤色の筆先が二人で貸しきりにした9号棟の一室に響いて街の雑音と混じる。
日当たりの良い6階までとどく客引きの口上は帝都一巨大な歓楽街の袋小路から壁をつたう。すぐ横に学舎があるなんて考えもしない大声がうるさい。
「8なんて俺は認めん。間違いなく2ケタは必須」
若干左上がりのスピードのある数字が16を記す。
「そこまで温度要らないって」
コツコツとペン先が机を叩く音も凄まじく、先に8を書いた青年が黒い前髪を邪魔そうにかきあげて渋い顔で抗議を表す。ただでさえ熱いんだからそれ以上はごめんだと言わんばかりのまなざしが向かいに座る学友の視線とぶつかる。
行儀悪く袖をまくって片肘ついた姿勢で、何か文句あんのかと無言の物言いで返してきた。褐色に日焼けした喉元から、心なし、小型犬が威嚇しているようなくぐもった響きが聞こえる。
うだるような熱波の中、討議の平行線がまっすぐに伸びて行く。
「こっから上でなきゃ絶対認めねぇ」
「いいや、こっちで十分だね」
「どっちだっていいじゃない。ところで何話してんの?酒?食い物?」
「「原始星の第二核融合開始温度」」
ここぞとばかりに声がそろった。
一つしかない教室の出入り口に立った女学徒には深紅の髪とよく動く鼠の耳、そして長いしっぽがあった。呆気にとられてぱたりと床を打つ。
「それがどこから熱いのかって話なんだけど」
目の前に傲然と並んだ小さな5から20の数字の左にはそれぞれ大きな10が並んでいる。乗数だ。単位には超過大温度を示す大文字。
「あー、あんたら学食来なかったよね」
時計の針は真昼を2時間程過ぎている。
「だってよぉ、教科書なのに温度幅あるって」
どうよそれ、と右側から。どうなんだろうね、と左側から。
「そんな事でメシ抜くかぁ?」
気が合うんだかそりが合わないんだかよく分からない二人に生暖かなまなざしと意地悪なため息をくれてやる。まったく手間のかかる意地っ張りめ。
真昼の明るさにも負けない深紅の尻尾がくるりと弧を描く。
「大陸歴3250、第289回学会禄話文書」
女としては魅力のない,厳つい手で一括りになった数を指す。
10の11乗。会議に依ればここから先が熱いということになっている。
「・・・・・・なんで。どうして」
納得出来ない何が根拠だとぶつぶついう黒髪の少年が、明確な回答を求めて視線を泳がせる。
「あたしに聞かれましても。大昔の会議で決まったことなんでねぇ・・・・・・ま、薬漬けと標本箱がやることでもないじゃん」
「じゃあなんで格闘女がンなこと知ってんだよ」
それこそ謎だこんちくしょー、と脱力するもう一方にも憔悴の色が濃い。
一斉にいすの背やら机やらに突っ伏す男どもをからからと笑って、目と鼻の先に紙包みを突き出す。
「蓬莱軒の包菜子と肉粽、要る?美食家のあたしが認めた逸品、美味いよぉ」
芳しい匂いに釣られた一瞬目が合って、
「はいっ食べます!」「つつしんで頂きます」
雁首揃えて頭を下げた二人の掌に二つずつ、遅めの昼食が乗せられる。
本当なら炎天下に30分待ちの行列店で作った超一級品。しかも数量限定。払い下げ品だからちょっと型くずれしてはいるものの、店子をやっている彼女だから持ってこれた最高の昼食である。
「「「いただきます」」」
実はこれを待っていたと言ったら、あんたらやっぱ阿呆だと笑われるだろうか。
片方の青年は手に持った紙束で生ぬるい風を送る。
壁に掛かった温度計が残りわずかな液体のストックを+へと押し上げる。
机上のノートに書き込まれるいくつかの数字。
「やっぱ8くらいだと思う」
小さく控えめに書かれた8の文字。ペンを持つ手のインク染みが手ににじんだ汗に流されて、散り散りに書かれた文字達を滲ませて机の一方へと引き下がる。
もう一方の手が机の向こうから伸びてきてマーカーで大きく二本、ばってんの形に線を引く。紙面を擦る赤色の筆先が二人で貸しきりにした9号棟の一室に響いて街の雑音と混じる。
日当たりの良い6階までとどく客引きの口上は帝都一巨大な歓楽街の袋小路から壁をつたう。すぐ横に学舎があるなんて考えもしない大声がうるさい。
「8なんて俺は認めん。間違いなく2ケタは必須」
若干左上がりのスピードのある数字が16を記す。
「そこまで温度要らないって」
コツコツとペン先が机を叩く音も凄まじく、先に8を書いた青年が黒い前髪を邪魔そうにかきあげて渋い顔で抗議を表す。ただでさえ熱いんだからそれ以上はごめんだと言わんばかりのまなざしが向かいに座る学友の視線とぶつかる。
行儀悪く袖をまくって片肘ついた姿勢で、何か文句あんのかと無言の物言いで返してきた。褐色に日焼けした喉元から、心なし、小型犬が威嚇しているようなくぐもった響きが聞こえる。
うだるような熱波の中、討議の平行線がまっすぐに伸びて行く。
「こっから上でなきゃ絶対認めねぇ」
「いいや、こっちで十分だね」
「どっちだっていいじゃない。ところで何話してんの?酒?食い物?」
「「原始星の第二核融合開始温度」」
ここぞとばかりに声がそろった。
一つしかない教室の出入り口に立った女学徒には深紅の髪とよく動く鼠の耳、そして長いしっぽがあった。呆気にとられてぱたりと床を打つ。
「それがどこから熱いのかって話なんだけど」
目の前に傲然と並んだ小さな5から20の数字の左にはそれぞれ大きな10が並んでいる。乗数だ。単位には超過大温度を示す大文字。
「あー、あんたら学食来なかったよね」
時計の針は真昼を2時間程過ぎている。
「だってよぉ、教科書なのに温度幅あるって」
どうよそれ、と右側から。どうなんだろうね、と左側から。
「そんな事でメシ抜くかぁ?」
気が合うんだかそりが合わないんだかよく分からない二人に生暖かなまなざしと意地悪なため息をくれてやる。まったく手間のかかる意地っ張りめ。
真昼の明るさにも負けない深紅の尻尾がくるりと弧を描く。
「大陸歴3250、第289回学会禄話文書」
女としては魅力のない,厳つい手で一括りになった数を指す。
10の11乗。会議に依ればここから先が熱いということになっている。
「・・・・・・なんで。どうして」
納得出来ない何が根拠だとぶつぶついう黒髪の少年が、明確な回答を求めて視線を泳がせる。
「あたしに聞かれましても。大昔の会議で決まったことなんでねぇ・・・・・・ま、薬漬けと標本箱がやることでもないじゃん」
「じゃあなんで格闘女がンなこと知ってんだよ」
それこそ謎だこんちくしょー、と脱力するもう一方にも憔悴の色が濃い。
一斉にいすの背やら机やらに突っ伏す男どもをからからと笑って、目と鼻の先に紙包みを突き出す。
「蓬莱軒の包菜子と肉粽、要る?美食家のあたしが認めた逸品、美味いよぉ」
芳しい匂いに釣られた一瞬目が合って、
「はいっ食べます!」「つつしんで頂きます」
雁首揃えて頭を下げた二人の掌に二つずつ、遅めの昼食が乗せられる。
本当なら炎天下に30分待ちの行列店で作った超一級品。しかも数量限定。払い下げ品だからちょっと型くずれしてはいるものの、店子をやっている彼女だから持ってこれた最高の昼食である。
「「「いただきます」」」
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己
HN:
我丞
性別:
非公開
職業:
人の話きく人
自己紹介:
人間27年生。
セクマイ道7年生くらい?
心理臨床とセクマイと発達凸凹を応援するよ!
ここにあることばと存在が、私のプロダクト。
見て、わからないことは聞いて。
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