思考社
いんふるえんす我丞の情報発信基地。
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見つめる瞳に映る草食獣と瞳そのものについての対話
「ねえライオン、どうしてガゼルは僕から逃げるんだい?」
それに対しライオンは、君が肉食でガゼルが草食獣だからだ。
なんてありきたりな事は言いませんでした。
「そうだなぁ、逃げる理由があるからじゃないのかね」
問いかけた方は、ふむ、と冷静になって考えを整理し始めました。
「とにかく彼女は、僕を見さえすれば驚くんだ。逃げるんだ。」
「ほう」
ライオンは、聞いている証拠に一つあいづちを返します。
「僕は確かに肉食獣だが、彼女を食べようとは思ってもみない。
もちろん爪に引っかけて遊んでやろうなんて、意地の悪い事だって
考えてやしないんだ。」
「でもガゼルは逃げるんだね?」
「うん。恥ずかしい、見られたくないと言いながら一目散だ」
「話を聞くに、君が危険ではないと知っている口ぶりじゃないか」
「そうかもしれない。でもだったらどうして逃げることがあるんだい?
逃げている時のガゼルはね、まるで後ろに目をつけているようでさ。300メートル先を振り返りもしないで逃げていく。でも実のところきちんと見てなんかいるわけがないだろ?だから僕は、「見られたくない」じゃなくて「見たくない」の間違いだって訂正したくなる」
こんなことばっかりさ、と低木の上にため息が生まれます。
ライオンは可笑しそうに小さく息を吐きました。
「すると君はガゼルに拒絶されているわけだ」
「ああまったく、僕の毛の抜けたしっぽや走り疲れてへばっている姿を見たくないばかりに、ガゼルは必死に逃げ続けているに違いない。きっとそうだ」
イライラと爪を立てるはしから、心地よい風が吹いてゆきます。
木陰ではライオンのふっさりと波打つたてがみが揺れます。
「ねぇ君、」
頃合いを見計らってライオンは声をかけました。
木の上からは、少し沈んだ声がおがくずと一緒に落ちてきます。
「何だいライオン」
「君はつまり、ガゼルに恋をした?」
「は?」
「だって君が300メートル先ばかり見ているんだもの」
おがくずの降ってこなくなった空を、ライオンの瞳が仰ぎます。
どうしてそんな問いになるの、とばかりに蜂蜜色の瞳が見返します。
「理由なんて、どうだっていいんだ。
ただ、追っているのは、逃げられると追いたくなるからだ」
そう言って、もう一頭の肉食獣は木から降りてきました。
「そんなことより、君はお腹が空いているんだったな。そろそろ行こうか」
一向に近づいてくる気配のないガゼルが逃げる理由を考えるのをやめて、
蜂蜜色の瞳をしたライオンは、木の下に寝そべっていたライオンを鼻づらで押しました。
起こされたライオンは、実のところガゼルが目も合わせず逃げる理由なんかどうでもよく、遠くを見つめていた蜂蜜色の瞳が綺麗なことや、隣を歩く足の裏が案外ふにふにと柔らかいことを思い出しましたが、それは口に出さないでおくことにしました。
ただひとこと、こう言いました。
「うん行こうか、狩りに」
それに対しライオンは、君が肉食でガゼルが草食獣だからだ。
なんてありきたりな事は言いませんでした。
「そうだなぁ、逃げる理由があるからじゃないのかね」
問いかけた方は、ふむ、と冷静になって考えを整理し始めました。
「とにかく彼女は、僕を見さえすれば驚くんだ。逃げるんだ。」
「ほう」
ライオンは、聞いている証拠に一つあいづちを返します。
「僕は確かに肉食獣だが、彼女を食べようとは思ってもみない。
もちろん爪に引っかけて遊んでやろうなんて、意地の悪い事だって
考えてやしないんだ。」
「でもガゼルは逃げるんだね?」
「うん。恥ずかしい、見られたくないと言いながら一目散だ」
「話を聞くに、君が危険ではないと知っている口ぶりじゃないか」
「そうかもしれない。でもだったらどうして逃げることがあるんだい?
逃げている時のガゼルはね、まるで後ろに目をつけているようでさ。300メートル先を振り返りもしないで逃げていく。でも実のところきちんと見てなんかいるわけがないだろ?だから僕は、「見られたくない」じゃなくて「見たくない」の間違いだって訂正したくなる」
こんなことばっかりさ、と低木の上にため息が生まれます。
ライオンは可笑しそうに小さく息を吐きました。
「すると君はガゼルに拒絶されているわけだ」
「ああまったく、僕の毛の抜けたしっぽや走り疲れてへばっている姿を見たくないばかりに、ガゼルは必死に逃げ続けているに違いない。きっとそうだ」
イライラと爪を立てるはしから、心地よい風が吹いてゆきます。
木陰ではライオンのふっさりと波打つたてがみが揺れます。
「ねぇ君、」
頃合いを見計らってライオンは声をかけました。
木の上からは、少し沈んだ声がおがくずと一緒に落ちてきます。
「何だいライオン」
「君はつまり、ガゼルに恋をした?」
「は?」
「だって君が300メートル先ばかり見ているんだもの」
おがくずの降ってこなくなった空を、ライオンの瞳が仰ぎます。
どうしてそんな問いになるの、とばかりに蜂蜜色の瞳が見返します。
「理由なんて、どうだっていいんだ。
ただ、追っているのは、逃げられると追いたくなるからだ」
そう言って、もう一頭の肉食獣は木から降りてきました。
「そんなことより、君はお腹が空いているんだったな。そろそろ行こうか」
一向に近づいてくる気配のないガゼルが逃げる理由を考えるのをやめて、
蜂蜜色の瞳をしたライオンは、木の下に寝そべっていたライオンを鼻づらで押しました。
起こされたライオンは、実のところガゼルが目も合わせず逃げる理由なんかどうでもよく、遠くを見つめていた蜂蜜色の瞳が綺麗なことや、隣を歩く足の裏が案外ふにふにと柔らかいことを思い出しましたが、それは口に出さないでおくことにしました。
ただひとこと、こう言いました。
「うん行こうか、狩りに」
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HN:
我丞
性別:
非公開
職業:
人の話きく人
自己紹介:
人間27年生。
セクマイ道7年生くらい?
心理臨床とセクマイと発達凸凹を応援するよ!
ここにあることばと存在が、私のプロダクト。
見て、わからないことは聞いて。
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